名古屋地方裁判所 昭和24年(ワ)229号 判決
原告 田辺太郎
被告 簡東緒
一、主 文
被告は原告に対し、名古屋市中区鶴重町二丁目十二番地及び同区東本重町三丁目七番地の一計五十八坪一合五勺(1-28E17)地上に存在する(一)木造トタン葺間口一間半奥行一間のバラツク建風呂場(別紙図面A)、(二)長さ約三間の板壁(同図面B)及び(三)木造トタン葺間口二間奥行二間半のバラツク建物置(同図面C)を各収去してその敷地を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は原告において金八万円の担保を供託するときは仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、原告は名古屋市中区東本重町三丁目七番地の一宅地六十一坪二合、同区鶴重町二丁目十二番地宅地四十坪一合、計約百一坪三合(別紙図面(イ)の土地、以下単に(イ)の土地と称する)及び右鶴重町二丁目十二番地上に存する鉄筋コンクリート二階建事務所一棟建坪四十五坪強(別紙図面(ハ)の建物、以下単に(ハ)の建物と称する)の所有者であるが、右(イ)の土地は都市計画のため道路敷地として名古屋市により徴収されることとなり、昭和二十一年十二月二十日その換地として同区東本重町三丁目及び鶴重町二丁目の土地1-28E17、五十八坪一合五勺(別紙図面(ロ)の土地、以下単に(ロ)の土地と称する)の仮使用指定を受けたのである。しかして原告は昭和二十三年九月十四日被告に対し前記(ハ)の建物のみを一箇月金四千円の賃料で賃貸したところ、その後被告は原告に無断で賃借物以外である前記(ロ)の土地(従前の(イ)の土地の一部も包含する)に(一)木造トタン葺間口一間半、奥行一間のバラツク建風呂場(別紙図面A)、(二)長さ約三間の板壁(同図面B)及び(三)木造トタン葺間口二間奥行二間半のバラツク建物置(同図面C)の各工作物を建設してこれを所有し、右(ロ)の土地を不法に占有しているから原告は被告に対し、右(一)乃至(三)の各工作物の収去及びその敷地の明渡を求めるため本訴請求に及んだ次第であると陳述し、被告の答弁に対し、原告はもと前記(ハ)の建物及びその西側に在つた本宅で医師を開業していたが、昭和二十年三月戦災に遇い右本宅が焼失したため自分は他に移転したこと、終戦後は右(ハ)の建物を訴外堀川一夫、同合資会社興民公司(代表社員久具正)に順次賃貸していたことはこれを認めるが、その余の主張事実は争う。尤も訴外堀川一夫に対しては右(ロ)の土地の一部にある井戸を使用することだけは認めていたが、該土地に工作物を設置することを許したことはなく、又同人及び右訴外会社に該土地を賃貸したことはない。従つて被告に前記(ハ)の建物を賃貸した当時は右土地には何等建設物は存在しなかつたのであつて、被告は特に右建物の賃借に際し該建物の存する土地の換地として、市より原告に付与されるべき本件(ロ)の土地には一切建築物及び造作物を設置しない旨を確約しているのである。又被告は本件土地は(ハ)の建物の敷地の一部と見るべきであるから(ハ)の建物の賃借権は本件土地の全部にも及ぶと主張するが、原告の従前の土地((イ)の土地)は前示のとおり百一坪強もあり、この内僅か四十五坪余は被告に賃貸せる(ハ)の建物の敷地で、その余の約五十六坪強は原告がもと居住していた木造二階建本宅の敷地であつて、右(ハ)の建物の敷地は右本宅の敷地より遙かに狭少でむしろその一部であつたのであるから、(ハ)の建物の賃貸借当時右本宅は既に焼失しその敷地が空地になつていても右建物の賃借権は当然該空地にも及ぶと見ることは到底許されないから被告の主張は失当である。元来原告は前記(ハ)の建物が戦災を蒙つた直後これを修理して同所で医業を再開する予定であつたところ、当時進駐軍が第二十五師団将兵の慰安所としてこれを半強制的に借り上げることとなつたため原告は止むを得ず他に移転したのであり、その後間もなく右師団が名古屋を撤退しその慰安所も不用になつたが、同慰安所のマネージヤーであつた訴外中江倖一は該建物を原告に明渡さずして、前記堀川一夫に転貸しついで順次被告に賃貸することとなつたが、原告としては現在右建物は別として生活上及び病客の関係上本件(ロ)の土地に医院を建設する必要があり、既にその設計を終り家屋建築の認可も受けているのであるから速に右土地の明渡を求める必要があると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告の主張に係る(イ)の土地及び(ハ)の建物はいずれも原告の所有であつたが、(イ)の土地は都市計画法により道路として名古屋市に徴収されることとなり、その換地として原告はその主張の日(ロ)の土地の仮使用の指定を受けたこと、被告は原告主張の日右(ハ)の建物を前主張の如き約定で賃借したこと、及び被告は現在右(ロ)の土地((イ)の土地の一部をも包含す)に原告主張の如き各工作物(別紙図面A、B、C)を所有しこれを占有中であることはいずれもこれを認めるが、その余の原告主張事実は争う。即ち(一)被告の賃借する(ハ)の建物は(イ)の土地に存在し共に原告の所有であつたが、右(ハ)の建物の敷地と右(イ)の土地のうち(ハ)の建物の敷地を除いた部分の土地とは全く一と構えの屋敷となつており該部分の土地は右(ハ)の建物の使用上該建物の敷地に従属すべき関係にあり、被告は適法に右(ハ)の建物を原告から賃借しているのであるから、その賃借権の存する限りこれが当然の効力として該建物の敷地以外に右(イ)の土地の全部を占有使用する権利がある。しかして該土地はその後都市計画法により換地され(ロ)の土地となつたが、本件係争物である風呂場及び板塀(別紙図面A、B)の各敷地は従前の(イ)の土地の一部と全く同一であるから、被告は該敷地に右各工作物を建設し所有することは何等違法ではない。仮に(ハ)の建物の賃借権の効力が右(イ)の土地の使用権にまで及ばないとしても、被告は原告との間に前記(ハ)の建物の賃貸借契約を締結する際既に(イ)の土地(但し現在(ロ)の土地の一部となる)に右風呂場の外ポンプ設備を所有して使用することにより本件風呂場及び板塀の各敷地を占有していたのであるが、原告はこれに対し特別の要求又は主張をせず右現状を承認して前示賃貸借契約を結んだのであるから、右風呂場及び板塀等の各敷地についても原告において(ハ)の建物に附随する賃貸借契約締結の黙示の意思表示があつたと見るべきである。元々(ハ)の建物は(イ)の土地の一部に建設されており、原告はここでもと医師を開業していたが昭和二十年三月空襲を受け罹災したので、ここを立退きその後昭和二十二年六月頃右建物を訴外堀川一夫に賃貸したのであるが、右賃貸借には勿論該建物と一と構えの屋敷になつている(イ)の土地のうち、本件風呂場及び板塀の存する敷地で(ロ)の土地となつた部分をも含んでいたので、同訴外人は当然該土地も右建物に附随して借受けこれに右各工作物及び水揚げポンプ装置を設置した。しかして右堀川は同年十一月右(ハ)の建物に対する賃借権と共に右風呂場等の各工作物を被告に譲渡したので被告は引きつづき、右(ハ)の建物と共に(イ)の土地((ロ)の土地となつた部分)を占有使用してきたが、当時被告は訴外合資会社興民公司の重役であつたので昭和二十三年三月右会社の名義で正式に原告より右(ハ)の建物の賃貸借契約を結び、次いで同年九月改めて名実共に被告がその賃借人となつたのである。しかるにこの間原告は被告に対しては勿論、右堀川及び興民公司の社長であつた久具正に対しても、右(イ)の土地に在る前記各工作物については何等異議を留めなかつたに拘らず、今日その収去を要求するは被告の到底認容し難いところである、(二)又本件係争建物であるバラツク建物置(別紙図面C)は(ロ)の土地のうち新に原告に換地として交付された土地に在り、該物置は昭和二十三年五月頃前記興民公司の代表者社員である久具正が自動車車庫として建築し同年九月被告はこれを右会社から譲受けたものであるが、右建築当時は右土地は空地であり換地が確定していなかつたものの大体該土地が原告に換地交付されることに予定されていたに拘らず、原告は久具正の右建築を黙認しており、その後被告が(ハ)の建物について原告と前示のとおり正式に賃貸借契約を締結した当時も被告は引きつづき右物置を所有してその敷地((ロ)の土地の一部)を占有使用していたのであるが、原告はこれについては何等異議をいわず却つて右賃貸借契約の約定で換地予定地である(ロ)の土地には原告に無断で建設物を新築することを禁止したのみで、既に建築してある右物置の敷地については何等制限を設けなかつたのであるから、右約定は(ロ)の土地が原告に換地交付されることを停止条件として(ハ)の家屋の賃貸借に附随して本件物置の敷地を被告に貸与する契約をしたものと見るべきであり、その後(ロ)の土地が原告に換地交付されたから右停止条件は成就し、原被告間に右(ロ)の土地のうち本件物置の敷地につき(ハ)の建物の賃貸借契約に附随する使用権が生じたのである。仮に右主張が理由ないとしても(ロ)の土地は(ハ)の建物の在る(イ)の土地の換地であるから被告が前示借家権に附随して有する(ハ)の建物の敷地及びその余の(イ)の土地の土地使用権は当然その換地である(ロ)の土地に及ぶものと云わなければならない。よつて被告は適法に本件各土地を占有しているのであるから原告の本訴請求に応ずることができない。と述べた。<立証省略>
当裁判所は職権を以つて原告本人(第二回)を訊問した。
三、理 由
原告主張に係る(イ)の土地及び(ハ)の建物は原告の所有であつて(イ)の土地は都市計画法により道路として名古屋市に徴収されることとなり、その換地として原告は昭和二十一年十二月二十日(ロ)の土地に対する仮使用の指定を受けたこと、被告は昭和二十三年九月十四日原告より右(ハ)の建物を一箇月金四千円の賃料で賃借したこと及び被告は現在右(ロ)の土地(従前の(イ)の土地の一部を含む)に原告主張の各工作物(別紙図面A、B、C)を所有しこれを占有中であることは当事者間に争いがない。よつて被告が右(ロ)の土地における前記各工作物(右図面A、B、C)の敷地を正当に占有すべき権利があるかどうかについて検討して見よう。凡そ建物の賃貸借は特にその敷地について別に賃貸借を結ばなくても当然その敷地の利用関係をも包含することは異論のないところであろう。けだし建物の賃貸借は賃借人をしてその建物の使用収益をなさしめることを目的とするのであるから、建物とその敷地は別に独立して権利の客体たり得ても、土地の定着物である建物を賃貸借の目的に供するときはその敷地は建物の用法に従う使用収益権の制限を受けることは当然であつて、契約当事者の意思もここにあるものと解しなければならないからである。しかしながらその敷地利用権の範囲はあくまで建物をその用法に従つて使用収益するについて必要と認められる範囲に限らるべきであつて、この限度を超えるときは特にその部分に対する当事者の意思表示がなければならないことも勿論である。しかして一筆の土地又は権利者を同うする同一区画内の数筆の土地の一部に賃借建物が建設されている場合、建物の賃貸借に基く土地使用権はその建物自体が存する部分を超えて当然一筆の土地又は同一区画内の他の全部或は一部にも及ぶかどうかは、その土地及び建物の位置、形状、近隣の土地建物との関係、賃貸建物の使用目的、賃貸条件等諸般の事情を考慮して決すべきであつて、建物と土地全部が同一所有者でありそれが接続して存在するからと云う理由のみで、直ちに全部の土地又は他の部分の土地に及ぶと解することは許されないものと云わなければならない。そこで先づ被告の(一)の抗弁について考えて見るに、(イ)の土地は全部で約百坪余あつてその一部に建坪四十五坪余の建物(ハ)が建築されており、該土地と建物はいずれも原告の所有であることは先きに認定したとおりであり、昭和二十二年六月頃原告は右建物を訴外堀川一夫に賃貸したが、当時は右土地の建物の占める敷地約四十五坪余以外の部分約五十坪余は空地であつて原告は爾来これを現実に使用していなかつたことは原告の明かに争わないところであるから、これらの事実にのみ着眼するときは、一応右(ハ)の建物の賃借人である被告はその建物自体の敷地約四十五坪余と共に当然その余の右約五十坪余の土地も使用する権限があるかの如く見えるが、しかし検証の結果(第一、二回)及び原告本人訊問の結果(第二回、但し後で採用しない部分を除く)によると、(イ)の土地は名古屋市内における中央部に位し所謂繁華街であつて他の土地に比較して経済的価値が大であるからその僅少を入手するにも甚だ容易でないこと、該土地は南北に約七間、東西に約十四間ある長方形の土地で東側と南側は道路に面しており、(ハ)の建物はその東約二分の一の地形に北、東、南の境界に接してほぼ正方形に建築され、その占める敷地は約四十五坪強であるから残部の西側約二分の一(約五十坪余)の土地は右東側約二分の一の土地及びその地上の(ハ)の建物と別個に独立してその利用価値並に経済的価値は極めて大きいこと、(ハ)の建物は南北及び東西各々約六、五間の西洋式鉄筋コンクリート二階建であり、全く事務所又は店舗向きに建築されていて北外側に約二尺余の非常階段があり、一階西側北寄りの箇所に僅かな出入口があるが、その主たる玄関口は南東の角の道路に面した所にあつて該建物の出入には右玄関口の利用のみで充分であり、窓も大半は南と東側に設けられていて採光、通風に適しているから右西側の土地は該建物の使用にそれほど必要ではないこと、被告は一階を理髪室と麻雀室に使用し、二階でキヤバレー青空を経営しているが、該建物をその用法に従つて使用するについては右西側の土地約五十坪余全部を強いて使用する必要がなく、ただ利用すれば便利だと云う関係にあること及び被告の所有する本件風呂場及び板塀(別紙図面A、B)は(ハ)の建物と約二間離れた(イ)の土地(後(ロ)の土地の一部となつた部分)の中央より稍々西側寄りに建設されていて、いずれも暫定的な工作物であることが認められ、これらの事実を綜合すると(イ)の土地のうち(ハ)の建物自体の敷地及び該建物の北側と西側の周囲に沿い、幅約三尺程度の土地の使用は格別それ以上に亘る前記風呂場及び板塀の敷地は被告の右(ハ)の建物の賃借権に伴う土地利用権の範囲を逸脱するものであつて許されないものと云わなければならない。したがつて(ハ)の建物の賃借権の効果は当然本件風呂場及び板塀の各敷地の使用権にも及ぶとする被告の抗弁は理由がない。更に被告は右(ハ)の建物の賃貸借を結ぶ際既に本件風呂場及び板塀を所有し、その各敷地を占有していたが、原告はこれについて何等異議を主張しなかつたから(ハ)の建物の賃貸借に附随して右各工作物の敷地の使用を許す黙示の意思表示があつた旨主張するから、按ずるに、原告はもと(ハ)の建物で医師を開業していたが、昭和二十年三月の空襲で罹災したので他に移転し、その後該建物を訴外堀川一夫及び同合資会社興民公司に順次賃貸していたことは原告において争いがなく、証人長尾かぎ、同北村義男及び被告本人(第一、二回)の各供述によれば、訴外堀川一夫は昭和二十二年六月頃(ハ)の建物を原告より賃借し、その後(イ)の土地(後に(ロ)の土地となつた部分)に本件風呂場及び板塀とポンプ装置を建設したが被告に対し相当の借財があつたため、被告の経営する訴外合資会社興民公司にこれを右(ハ)の建物の賃借権と共に譲渡し同会社はその後更に被告に譲渡したので、被告は右風呂場、板塀等の所有者となると共に原告と正式に(ハ)の建物の賃貸借を結んだことは明かであり、この認定に反する原告本人の供述部分(第二回)は遽に措信し難いが、しかしながら右訴外人等はいずれも前記各工作物を(イ)の土地の一部((ロ)の土地の一部になつた部分)に建設するについて所轄官署の認可を経ていないことは弁論の全趣旨に徴し明かであり、成立に争いがない甲第四号証によれば、原告は被告に(ハ)の建物を賃貸した直後である昭和二十三年十二月二十一日愛知県知事宛に(イ)の土地の換地である右(ロ)の土地に診療所新築の許可申請をし、その許可を受けていることが認められ、これらの事実に成立に争がない甲第一、五、六号証、原告本人訊問の結果(第一、二回)により成立を認める同第二号証及び同訊問の結果(先きに採用しなかつた部分を除く)を考え合せると原告は(ハ)の建物は名古屋市より遠からず収去を命ぜられる運命にあつたので、(イ)の土地の換地である(ロ)の土地に医院を建設すべく計画し、(ハ)の建物のみを前記各訴外人及び被告に対し順次賃貸してきたのであつて、その敷地以外の土地までも貸与する意思がなかつたことが明かであり、証人田中鎌吉の証言及び被告本人(第一、二回)中右認定に反する部分は採用し難いから被告の右主張は採用することができない。次に被告の(二)の抗弁について判断するに、前顕北村、長尾両証人の証言及び被告本人訊問の結果(第一、二回)によると被告は原告より(ハ)の建物を正式に賃借する際本件バラツク建物置(別紙図面C)が既に(ロ)の土地に建築されていたこと、該物置は(ハ)の建物の前賃借人である前記興民公司が建築したものであつて、当時被告は同訴外会社からこれを譲受けて所有していたことが明かであり、又前顕甲第一号証によれば(ハ)の建物の賃貸借に当りその条件として換地予定地には原告に無断で建設物及び造作物を新築又は設置しない旨を約定したことが認められ、且つ当時(ロ)の土地は(イ)の土地の換地として予定されていたことも原告の自認するところであるが、前顕甲第二号証に原告本人訊問の結果(第二回)を綜合すれば、被告との前記賃貸借はその前賃貸借人訴外興民公司との間の賃貸借と全く同一条件であつたので、その契約書(甲第一号証)も前賃貸借の契約書(甲第二号証)の形式に従つて作成したに過ぎないのであつて、新築を禁止する旨の前示約定もつい右契約書の文言をその儘引用したまでであることが認められるから、被告に対しては右文言はさしたる意味をもつものではなく、勿論これにより被告に特に既存の建物(本件物置)の敷地の使用を許した趣旨とは考えることができない。又前敍の如く右約定中には「新築又は設置」することを禁止する文言があつて既存の建物の設置をも許さない趣旨とも解され得るのであるから「新築」することを禁止する文言のみを捉えて直ちにその反対解釈をすることは許されないものと云わなければならない。しかして他に被告との前示賃貸借契約に被告主張の如き(ロ)の土地に対する停止条件附使用契約が附随して結ばれていたことを肯認するに足る資料がないから、その存在を前提とする被告の抗弁はこの点において既に失当である。尚被告は(ロ)の土地は(ハ)の建物の存在する(イ)の土地の換地であるから(ハ)の建物の借家権に附随して有する敷地(イ)の土地の使用権は当然その換地である(ロ)の土地にも及ぶから(ロ)の土地のうち前記物置の敷地を使用する権利があると抗争するが、被告が賃借権を有するのは(ハ)の建物についてのみであり、(イ)の土地のうち(ハ)の建物の敷地を利用し得る権限は前敍のとおり建物の使用収益権に伴う一つの反射的効果と見るべきであつて、土地に対する独立の使用権ではないから建物の使用収益とは別個に考えることができない。したがつて(ロ)の土地は(イ)の土地の換地であつても(ハ)の建物が(ロ)の土地に存在しないかぎり被告がこれを使用する権利がないものと云わなければならない。よつて被告の右抗弁も亦理由がない。しからば被告は原告に対し(ロ)の土地に所有する本件各工作物(別紙図面A、B、C)を収去してその敷地を明渡す義務があるから原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用し主文のとおり判決する次第である。
(裁判官 中瀬古信由)
図<省略>